悪文とはわかりにくい、読みにくい文の意味ですが、そんなものを書いてどうするのかとお思いでしょう。
悪文を自在に使いこなせれば、書かないといけなけれどすんなり読んでほしくない状況、たとえば謝らなければいけないけれど記憶には残ってほしくない謝罪文(たいてい悪文は頭に入りにくい)や、文字数が指定された反省文(たいてい悪文はムダに長い)に活用することができるのです。
また反対に悪文の構造を把握することで、意図せず悪文が飛び出るリスクを減らせることもメリットでしょう。
では悪文をつくるにはどうすればいいのでしょうか。今回はそのレシピについてご紹介していくのですが、その中でもっとも重要になるのが「語順」です。
”わかりにくさ”という一見主観的な基準に対して、語順を変えることでれっきとした法則性を示すことが可能なのです。
悪文的語順の法則を身に着けることで、日本語的な破たんを見せないまま、読み手を困惑させる方法が手に入ります。
[originalsc]
不適切な語順のつくりかた
『日本語の作文技術』(本多勝一・朝日文庫)を参考に、語順を生理的に最不適化する方法を探っていきましょう。
ここでは5つのパターンにわけて解説します。
1、修飾・被修飾を離す
私は佐藤が田中が砂糖を棚から盗んだと証言したのかと思った。
それぞれの修飾・被修飾ペアをもっとも遠く離すことで実現した、悪文界の模範囚。
どこへ出しても恥ずかしくない、大悪文の名をほしいままにする一文です。
悪文の悪例↓
私は田中が砂糖を棚から盗んだと佐藤が証言したのかと思った。
2、”句”や”節”を無視する
わたしは道を通行人に勇気をふり絞って初めて聞いた。
節とは主語・述語1セット、句は単体。
通常、文の中で節を前に出し、句を後にすると自然で読みやすい文ができるとされています。
また、時間をあらわす語句(昨日、明日、そのとき、…)はなるべく前に出す(重要性が高い場合がほとんどなので)のもおなじく自然さを生み出すセオリーです。
この一文はそれらを逆手に取り、派手さはないものの確かな悪文に仕上がりました。一度散らばった芯を無造作に詰め込まれたロケット鉛筆のような、絶妙な違和感が醸すフレーバーは玄人好みといえるでしょう。
悪文の悪例↓
わたしは初めて勇気をふり絞って通行人に道を聞いた。 「勇気を出して」を節とし前に出す
3、長い修飾語をなるべく後ろに配置する
明瞭な声でなぜかさつま揚げと今日は間髪入れずいつも聞かれると困ってしまう好きな食べ物の質問に答えられた。
「 明瞭な声で なぜか さつま揚げと 今日は 間髪入れず いつも聞かれると困ってしまう好きな食べ物の質問に 」を文字数の多いものを後方に配置しただけのシンプルな悪文。
”長い修飾語を前に置く”という自然さの法則を逆用した、良質な悪文。
悪文の悪例↓
今日はいつも聞かれると困ってしまう好きな食べ物の質問になぜか間髪入れず明瞭な声でさつま揚げと答えられた。
4、重要なことは後回しに、またはさりげなく最後に
毎度大好評のスーパーセールは
ここまでの1~3でご紹介したは、生理的にわかりやすい語順を逆用して悪文を作成する方法をご紹介してきました。しかしそれだけでは足りない要素があります。
それは「意味的な要素」です。
1~3の法則で基本的な語順が決定し、のこるは意味的・状況的に本来重要度が高いもの、強調したいものを文末にもってきます。
たとえば、(Ⅰ)
と、主語を早く明らかにすることで自然になり、その文で一番重要な存在が「私」であると明示します。
(Ⅲ)の例だと、
この場合、主語が誰なのか前後の文脈で自明なため省略されているのでしょう。そのため強調したい説明、状況を文頭に持ってくることができます。
これでこの一文における自然さは最大まで高まったと思います。
5、読点(、)を入れる
4のとおり、意味的に重要度の高いもの(『日本語の作文技術』では「大状況から小状況へ」と書いています)を文頭に持ってくることで、その文の語順的な自然さは完成します。
しかし、法則を理解するうえで、あくまで基本となるのはⅠ~Ⅲ。
意味的なわかりやすさの基本法則を飛び越えるイレギュラーな行為(頻出であるけれど)という認識でいると整理しやすいと思います。
イレギュラ―なときは、読み手にそのことを明示するために、読点の出番です。
ほかに句読点を使うべきタイミングについてはこちら
[st-card id=222]参考:逆手に取った”わかりやすい文”のための語順ルール
- 修飾語はなるべく近くに置く
- 節を前に、句を後に置く
- 長い修飾語から前に置く
- 意味的に重要なもの(主語や場所や時間)を前に置く
- 意味的に重要なものが前に来ていると示す読点「、」を打つ
まとめ
今回は語順を中心に悪文の作り方をご紹介してきました。
ほかに邪道として、「カタカナ語を鬼のように多投する(ルー大柴型)」や「重言をふんだんに盛り込む」など悪文作成術には種々の流派が存在しますが、ここではキリがないのでまたの機会に。
お疲れさまでした。