「頭痛が痛い」「前に前転」「後ろにバック」など、同じ意味の表現がダブっているものを重言(じゅうげん)といいます。
ちなみに二重表現、重複表現もこれと同じ意味で使われます。
※この記事では「重言」として進めます。
重言に触れてみよう!
代表例である「頭痛が痛い」「馬から落馬」のほかにも、「後で後悔」「日本へ来日」など、重言の組み合わせは無限大。
代表格のいくつかを使って例文を作ってみました。↓
結婚式の式中、わき腹に鈍い鈍痛が走り、プロテスタントの牧師のことばにも呻き声のような返事を返すのが精いっぱいだった。
あらかじめ挙式を挙げる予定だったにもかかわらず、昨日調子に乗って馬に乗馬したせいだ。体の体調が悪く、熱が発熱し、腰に違和感を感じ、頭痛も痛かった。
そんな中、尽力を尽くすも、やはり案の定、馬から落馬し、肋骨を骨折した。後になって後悔しても遅い。
今の現状では、途中で中断してもらうよう申し出のお願いをするかはまだ未定だ。
1:「馬から落馬」型
- 「馬から落馬」
- 「日本へ来日」
- 「挙式を挙げる」
- 「部屋へ入室」
- 「船に乗船」
これらのように「落馬する」「来日する」「挙式する」と単独で動詞化できるパターン。これは単純に用法に問題があり、回避率を高めるために、書き手はセンサーが必要です。
2:「プロテスタントの牧師」型
- プロテスタントの牧師(カトリックは神父)
- 若くして夭折(夭折:若くして他界すること)
- 壮観な眺め(壮観:規模が大きく素晴らしい眺め)
- 過半数を超える(過半数:半数を超えること)
- 炎天下の下(下は不要)
語意を正しく把握しているかが問われるタイプです。知識が曖昧な言葉を背伸びして使わなければ、避けやすいでしょう。
3:「違和感を感じる」型
- 違和感を感じる
- 犯罪を犯す
- 被害を被る
- 旅行に行く
これらは厳密には問題ありません。
感じなければ違和感はなく、犯さなければ犯罪は生じえないからです。
どういうことかというと、「AをBする」とき、Bという行為がなければAはなく、「犯す」という行為によって生じる名詞がそれと親和性の高いものであるのは当然であり、漢字の重複が起こってもなんら不自然なことではないからです。
しかし、見栄えは悪いかもしれません。
また「誤用である!」と誤認している人が多いのもまた事実のため、できれば置き換えたいところです。
- 違和感 → ある、覚える、持つ・・・
- 犯罪 → する、行う・・・
- 被害 → 受ける・・・
4:定着して許されたもの
- 故障中(故障は状態を表すため、中は重言)
- 事前予約(事前と予めが重言)
- 防犯対策(犯罪を防ぐのはもはや対策、といえるかも)
もはや定型フレーズとして浸透したもの。論文や社説、リテラシーの高い場では避けることをお勧めします。
ちょっとしたまとめ: ×誤用 〇作法として間違い
文法の崩れも意味的な誤解もないとすると、重言は誤用というより作法(配慮)の問題です。
つまり「重言=間違い」というツッコミは不適当。重言は「マヌケな遠回り」が正しいツッコミとなります。
話し言葉(口頭)ではあまり違和感がない
重言は無駄な遠回りですが、意味を重ね塗っているともいえ、それが強調表現として機能する場合もあるのです。また重ねることで理解が容易になる作用もあります。
それが顕著なのが口頭の場合で、何回でも確認できる文字上とは違い、繰り返しが親切に受け取られるケースも多いと思います。
書いてしまうと逃げ場がない ”無配慮”に
口頭と比べ、文字上では読み手・書き手ともに十分な時間が与えられているため、重言の冗長(ムダ)な側面だけが強調されます。
付録:危険が危ないよく出る頻出重言61
最後に、できれば知っておきたい重言を集められるだけ集めてみたので、よかったら参考にしてください。
ありがちなので回避したい
- 全て一任する 「一任する」=全て任せる
- お歳暮の贈り物 お歳暮自体に贈り物の意味が含まれる。
- 後で後悔する
- 雪辱を晴らす 「雪辱」事態に「晴らす」という意味が含まれる。「雪辱を果たす」が正解。
- 過半数を超える 半数を超えることを過半数という
- いまだに+未~(未完成・未解決・未編集etc)
- あらかじめ+予~(予約・予定etc)
- 日本に来日/アメリカに渡米 系
- 挙式を挙げる 挙式=式を挙げる
- 捺印を押す 捺印=印を捺す(おす)
- 尽力を尽くす 〇尽力する
- 炎天下の下/炎天下の中
- 若くして夭折 夭折=若くして亡くなること
- 沿岸沿い 〇海岸沿い
- 加工を加える 〇加工する
- だいたい10kmくらい/約10km程度 それぞれ前後のどちらかでいい
- 従来から(従来より) 従来=以前から今まで。これまで。
- 壮観な眺め 壮観=規模が大きくすばらしいながめ
- 被害を被る 〇被害を受ける、損害を被る。
- 一番ベスト ベスト=一番
- おっしゃられる 「おっしゃる」「~られる」の二重敬
フォーマルなら避けたい
- 今の現状/今現在 どちらかで良い
- 内定が決まる 内定する
- 必ず必要 必ず要る
- まず最初に
- まだ時期尚早
- 色が変色する
- 過信しすぎる
- 車の車間距離
- 引き続き継続する
- 水が増水する/水を放水する。
- 余分な贅肉
- わきで傍観する
- 連日暑い日が続く
- 秘密裏のうちに、成功裏のうちに
- 各位様/~様各位 各位自体が敬意を表す→様は不要。
- 今朝の朝刊
できれば避けたい
- 違和感を感じる 違和感を覚える、違和感がある
- 返事を返す 返事をする
- お金を入金する 入金する
- 収入が入る 給料が入る
- 期待して待つ 期待自体に待つ意味が含まれる
- 各○○ごと
- 一番+最~(最高・最低・最初・最後etc)
豆知識
- 射程距離 射程=弾丸などが届く最大距離
- 生ライブ 生だからライブ
- 思いがけないハプニング ハプニングはいつも思いがけない
- 故障中 「故障」が既に状態を表しているので「中」は不要
- 霙交じり(みぞれまじり) 霙(みぞれ)=雨と雪が入り混じって降ること
- 元旦の朝 ※元旦=元日の朝
- 後ろから羽交い絞め 羽交い絞め=背後から脇の下に差し入れた両手を相手の首の後ろで組んで締め付けること
- 轍の跡(わだちのあと) 轍=車輪の跡
- クリスマス・イヴの夜 クリスマス・イヴ=クリスマスの前夜
- お体御自愛ください 自愛=病気などしないよう自分の体を大切にすること。お体は不要。
- ダントツ一位 「ダントツ」=「断然トップ」。俗語。
- 酒の肴 肴=酒を飲む際に添える食品